【対談】春画はエロ本なのか 江戸のスターは全員描いていた

春画は芸術

春画はエロ本なのか 江戸のスターは全員描いていた

角子 前に春画の話が出ましたよね。

万太郎 したな。美術館に並ぶって話だ。

角子 あれ、結局なんなんですか。美術品なんですか。

万太郎 難しいところだな。

角子 美術館でやってるってことは、美術ですよね。

万太郎 今はな。だが作られた当時は違う。

角子 どう違うんですか。

万太郎 江戸時代には笑い絵と呼ばれてたそうだ。

角子 笑い絵。

万太郎 性愛を描いたものだが、おおらかで、時にユーモアがあった。大名から庶民まで、身分に関係なく楽しまれてたらしい。

角子 庶民も見てたんですか。

万太郎 見てた。しかも男女対等にな。縁起物とされて、嫁入り道具として母から娘に受け継がれることもあったそうだ。

角子 えっ、親から子に渡すんですか。

万太郎 渡す。今の感覚だと考えられんだろう。

角子 考えられません。

万太郎 子孫繁栄を願う縁起物って扱いだったんだな。

角子 じゃあエロ本とは違いますね。

万太郎 そこなんだよ。用途が違う。

角子 誰が描いてたんですか。

万太郎 そこが一番驚くところだ。全員だ。

角子 全員。

万太郎 喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川国貞、歌川国芳、鈴木春信。有名な絵師はみんな描いてる。

角子 北斎って、あの波の人ですよね。

万太郎 あの人だ。

角子 教科書に載ってる人が描いてたんですか。

万太郎 描いてた。『喜能会之故真通』とか『萬福和合神』とかな。

角子 歌麿は。

万太郎 『歌まくら』だ。春画の中でも特に有名な作品とされてる。

角子 他にもありますか。

万太郎 鳥居清長の『袖の巻』、鈴木春信の『雪中相合傘』、渓斎英泉の『夢多満佳話』。挙げていけばきりがない。

角子 本当に全員ですね。

万太郎 全員だ。だから浮世絵の歴史と春画の歴史は、ほぼ重なる。

角子 でも、堂々と描いてたんですか。

万太郎 そこが面白い。本名では描いてないんだ。

角子 偽名ですか。

万太郎 陰号っていう別名を使ってた。摘発から逃れるためだな。

角子 どんな名前ですか。

万太郎 北斎は紫色雁高。国芳は一妙開程芳。渓斎英泉は淫乱斎英泉。

角子 最後のは開き直ってませんか。

万太郎 開き直ってる。洒落っ気があるんだよ。

角子 バレバレですよね。

万太郎 バレバレだろうな。形式だけだ。

角子 じゃあ黙認されてたんですか。

万太郎 禁制品にはなってる。享保七年以降だな。だが禁令の後も作られ続けて、出版文化を支えたとされてる。

角子 止まらなかったんですね。

万太郎 止まらん。需要があるからな。

角子 それで、いつからタブーになったんですか。

万太郎 明治以降だ。西洋の倫理観が入ってきて、隠すものになった。

角子 外から来た価値観なんですね。

万太郎 そうだ。江戸の頃はもっとおおらかだった。

角子 じゃあ、質問に戻りますけど。

万太郎 なんだ。

角子 春画はエロ本なんですか。

万太郎 ……両方だと思う。

角子 どっちつかずですね。

万太郎 いや、当時の人にとっては生活の中の絵だ。縁起物でもあり、楽しむものでもある。

角子 分けてなかったんですね。

万太郎 分けてない。分けたのは後の時代だ。

角子 美術かエロか、っていう区別自体が新しいと。

万太郎 そういうことになるな。

角子 じゃあ、今のAVも三百年後には分けられなくなるんですか。

万太郎 ……どうだろうな。

角子 また逃げましたね。

万太郎 逃げてない。三百年後は見られないんだから、比較のしようがない。

角子 あ、前の回の話ですね。

万太郎 そうだ。物が残らない。

角子 春画は残ってますもんね。

万太郎 残ってる。それが決定的な違いだ。

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