上から順番に出てくる画像 ダウンロード30分の攻防
角子 今日はインターネットの話ですか。
万太郎 そうだ。あれが来たときは、また世界が変わった。
角子 ビデオデッキのときも言ってましたね。
万太郎 何回か変わるんだよ、人生で。
角子 最初はどうだったんですか。
万太郎 まず、つなぐのが大変だった。
角子 つなぐ。
万太郎 電話回線を使うんだ。だから電話代がかかる。
角子 従量制ですか。
万太郎 そうだ。使った分だけ請求が来る。だから深夜にやるんだよ。
角子 また深夜ですね。
万太郎 この話は全部深夜だ。
角子 それで、何を見てたんですか。
万太郎 画像だな。まだ動画なんて無理な時代だ。
角子 画像だけですか。
万太郎 画像だけだ。しかも一枚が重い。
角子 どれくらいかかるんですか。
万太郎 ものによるが、三十分とか、一時間とか。
角子 一枚でですか。
万太郎 一枚でだ。
角子 嘘でしょう。
万太郎 嘘じゃない。しかも途中で切れることがある。
角子 切れたらどうなるんですか。
万太郎 最初からやり直しだ。
角子 地獄ですね。
万太郎 地獄だ。だが当時はそれが普通だった。
角子 待ってる間は何をしてるんですか。
万太郎 見てる。
角子 何をですか。
万太郎 画面をだ。上から少しずつ出てくるんだよ。
角子 少しずつ。
万太郎 一気に表示されないんだ。上から順番に、線が引かれるみたいに描画される。
角子 途中まで見えるってことですか。
万太郎 そうだ。最初は髪の毛のあたりが出る。それから顔が出てくる。
角子 じらされますね。
万太郎 じらされる。あの時間が異様に長い。
角子 でも期待は高まりますね。
万太郎 高まる。今から思えば、あれ自体が娯楽だった。
角子 待つのが楽しいと。
万太郎 楽しいというか、緊張だな。何が出てくるかわからんから。
角子 わからないんですか。
万太郎 わからん。当時は説明が当てにならない。
角子 どういうことですか。
万太郎 ファイル名しか情報がないんだよ。しかも嘘が多い。
角子 嘘。
万太郎 全然違うものが出てくることがある。
角子 たとえば。
万太郎 ……グロ画像だ。
角子 えっ。
万太郎 三十分待って、上から出てきて、途中で気づくんだ。あれ、これは違うぞと。
角子 途中で気づくんですか。
万太郎 気づく。だが止められない。
角子 止められないんですか。
万太郎 止められるが、もう遅い。見えてしまってる。
角子 最悪ですね。
万太郎 最悪だ。しかも深夜だぞ。一人で。
角子 怖いですね。
万太郎 怖い。あれは本当にトラウマになった。
角子 何回もあったんですか。
万太郎 何回もある。学習しないんだよ。
角子 学習してくださいよ。
万太郎 次はちゃんとしたやつだろうと思うんだ。
角子 思わないでください。
万太郎 だが、たまに当たりがある。それがまた悪い。
角子 ギャンブルですね。
万太郎 ギャンブルだ。あの構造は完全にそれだった。
角子 今はそういうことないですよね。
万太郎 ない。一瞬で表示されるし、サムネイルが出る。
角子 見る前にわかりますもんね。
万太郎 わかる。だからトラウマにならん。
角子 安全ですね。
万太郎 安全だ。ただ、あの緊張感はなくなった。
角子 いらないと思いますけど。
万太郎 いらないな。誰も欲しがらないだろう。
角子 でも、上から出てくる話は面白かったです。
万太郎 あれを知ってるのは俺たちの世代までだ。
角子 絶滅しますね。
万太郎 絶滅する。だから話しておこうと思ったんだ。
