等身大ポスターの行き場 実家では貼れなかった
角子 今日は何ですか。
万太郎 付録の話をしたい。
角子 付録。
万太郎 雑誌に付いてくるやつだ。Beppinって雑誌があってな。
角子 この前のデラべっぴんと同じところですか。
万太郎 同じ出版社だ。あそこは何誌も出してた。
角子 それで、付録が何なんですか。
万太郎 等身大ポスターだ。
角子 等身大。
万太郎 人と同じ大きさだな。折り畳まれて雑誌に挟まってる。
角子 大きいですね。
万太郎 大きい。開くと畳一枚くらいになる。
角子 誰のポスターですか。
万太郎 女優さんだ。もちろん、その、着てない状態でな。
角子 言い方に気を使いましたね。
万太郎 気を使った。
角子 それが付いてくるんですか。
万太郎 付いてくる。あれは事件だったな。
角子 なんでですか。
万太郎 雑誌は雑誌だろう。ページをめくるものだ。だがポスターは違う。
角子 貼るものですね。
万太郎 そうだ。飾るためのものだ。前提が違う。
角子 それで、飾ったんですか。
万太郎 ……飾れるわけがない。
角子 なんでですか。
万太郎 実家だぞ。
角子 あ。
万太郎 自分の部屋はあるが、親が入ってくる。
角子 入りますよね。
万太郎 掃除とか、洗濯物を置きにとか。ノックもせずに開く。
角子 それは無理ですね。
万太郎 無理だ。畳一枚の裸が壁にあるんだから。
角子 言い訳できないですね。
万太郎 できない。ポスターだから、って言っても通らんだろう。
角子 じゃあどうしたんですか。
万太郎 畳んだまま、しまっておいた。
角子 開かないんですか。
万太郎 たまに開く。誰もいないときに広げて、しばらく見て、また畳む。
角子 それ、意味あります。
万太郎 意味はない。
角子 即答しましたね。
万太郎 意味はないが、そうするしかなかった。
角子 貼れる人はいたんですか。
万太郎 一人暮らししてる奴とか、そういう連中はな。
角子 羨ましかったんですね。
万太郎 羨ましかった。あれは自由の象徴だった。
角子 大げさですね。
万太郎 大げさじゃない。壁に何を貼るかは自由の問題だ。
角子 言い方が急に立派になりましたね。
万太郎 立派に聞こえるだけだ。
角子 結局、一度も貼らなかったんですか。
万太郎 貼ってない。それが心残りでな。
角子 まだ言うんですか。
万太郎 まだ言う。今でもたまに思い出す。
角子 今なら貼れるじゃないですか。
万太郎 ……そこなんだよ。
角子 貼らないんですか。
万太郎 貼らん。今度は貼りたくない。
角子 なんでですか。
万太郎 貼れない状況だから欲しかったんだ。今は自由に貼れるが、そうすると別に欲しくない。
角子 禁止されてたから価値があったと。
万太郎 そうだ。それがわかったのは、ずっと後になってからだな。
角子 じゃあ、心残りじゃないですね。
万太郎 いや、心残りではある。
角子 どっちですか。
万太郎 両方だ。貼りたかったし、今は貼りたくない。
角子 面倒くさい人ですね。
万太郎 面倒くさいんだよ、この年代は。
