開かないページの謎 高校時代の貸し借り事情
角子 今日は何ですか。
万太郎 貸し借りの話をしたい。
角子 何をですか。
万太郎 雑誌だ。高校の頃はな、みんなで回してた。
角子 エロ本をですか。
万太郎 そうだ。誰かが買って、それを順番に借りていく。
角子 買った人は偉いんですか。
万太郎 偉い。あれは勇気の要る行為だからな。だから最初に読む権利がある。
角子 制度化されてますね。
万太郎 制度だ。暗黙のルールがあった。
角子 どうやって渡すんですか。
万太郎 紙袋に入れて、こっそりだ。教科書に挟むやつもいたな。
角子 見つかったらどうなるんですか。
万太郎 没収だな。先生に取られて終わりだ。
角子 返してもらえないんですか。
万太郎 もらえない。買ったやつが泣くことになる。
角子 連帯責任ですね。
万太郎 そうだ。だから慎重に扱った。
角子 大事にされてたんですね。
万太郎 ……大事にはされてない。
角子 どっちですか。
万太郎 扱いは慎重だが、状態はひどい。
角子 どういうことですか。
万太郎 三人目くらいから、様子がおかしくなってくる。
角子 様子。
万太郎 ページがな、開かないんだ。
角子 破れてるんですか。
万太郎 破れてない。くっついてる。
角子 くっついてる。
万太郎 そうだ。袋とじでもないのに、袋とじみたいになってる。
角子 ……それ、何がくっついてるんですか。
万太郎 わからん。
角子 わからないんですか。
万太郎 わからんことにしてた。
角子 してたって何ですか。
万太郎 誰も追及しないんだよ。それが礼儀だった。
角子 いや、明らかにおかしいですよね。
万太郎 おかしい。だが指摘したら空気が終わる。
角子 気にならないんですか。
万太郎 なる。なるが、聞けない。
角子 じゃあどうするんですか。
万太郎 黙って剥がす。
角子 剥がすんですか。
万太郎 剥がす。慎重にな。破らないように。
角子 なんでそこまでするんですか。
万太郎 読みたいからだ。
角子 強いですね。
万太郎 強いんだよ、あの頃は。
角子 でも、次の人に渡すんですよね。
万太郎 渡す。剥がした状態でな。
角子 次の人は気づきますよね。
万太郎 気づく。だが何も言わない。
角子 全員が黙ってるんですね。
万太郎 全員だ。あれは共犯関係だな。
角子 ひどい話ですね。
万太郎 ひどい。今考えると衛生的にも問題がある。
角子 今気づいたんですか。
万太郎 当時は何も考えてない。
角子 結局、原因は何だったんですか。
万太郎 だから、わからんと言ってるだろう。
角子 絶対わかってますよね。
万太郎 ……推測はある。
角子 言ってください。
万太郎 言わん。
角子 なんでですか。
万太郎 言葉にすると台無しになるものがあるんだ。
角子 都合のいいときだけ文学的になりますね。
万太郎 そうやって生きてきた。
角子 でも一つ聞いていいですか。
万太郎 なんだ。
角子 万太郎さんも、次の人に渡すとき、そうしてたんですか。
万太郎 ……次の話をしよう。
角子 答えてください。
万太郎 次の話だ。
