【対談】記録が消えていく AV史を語れなくなる日

浮世絵春画

記録が消えていく AV史を語れなくなる日

角子 万太郎さん、前から気になってたんですけど。

万太郎 なんだ。

角子 昔の作品って、今も見られるんですか。

万太郎 見られないものが多いな。というか、ほとんど見られない。

角子 配信されてないんですか。

万太郎 配信以前の問題だ。物が残ってない。

角子 どういうことですか。

万太郎 テープの時代のものは、劣化するんだよ。あれは永久保存できる代物じゃない。

角子 消えるんですね。

万太郎 消える。画質が落ちて、最後は再生できなくなる。

角子 メーカーが保管してないんですか。

万太郎 してるところもあるだろうが、全部ではないだろうな。倒産した会社も多い。

角子 倒産すると、どうなるんですか。

万太郎 わからん。誰かが引き取るのか、捨てられるのか。

角子 誰も追ってないんですね。

万太郎 追ってないと思う。そもそも記録として扱われてこなかった。

角子 商品だからですか。

万太郎 そうだ。売れたら終わり。残す前提で作られてない。

角子 でも、歴史って言うなら記録が要りますよね。

万太郎 そこなんだよ。俺たちがこうして昔の話をしてるだろう。

角子 してますね。

万太郎 その根拠が、俺の記憶しかないんだ。

角子 それは弱いですね。

万太郎 弱い。確かめようがない。

角子 資料はないんですか。

万太郎 当時の雑誌とかは残ってるらしいが、まとまって整理されてはいないんじゃないか。

角子 図書館とかにないんですか。

万太郎 どうだろうな。この手のものを収集してる場所は限られてると思う。

角子 文化として扱われてないってことですか。

万太郎 扱われてこなかった。まあ、当然といえば当然だがな。

角子 でも、春画ってありますよね。

万太郎 江戸時代のやつか。

角子 あれ、今は美術館で展示されたりしますよね。

万太郎 してるな。何年か前に大きな展覧会があったはずだ。

角子 昔は堂々と見せるものじゃなかったんですよね。

万太郎 明治以降は取り締まりの対象だったと聞く。長いこと表に出せなかった。

角子 それが今は研究されてると。

万太郎 時間が経つと扱いが変わるんだな。

角子 じゃあ、AVも三百年後には美術館に並ぶんですか。

万太郎 ……並ぶかもしれんな。

角子 真顔で言わないでください。

万太郎 いや、ありえない話じゃないだろう。春画だってそうなったんだから。

角子 でも一つ違いませんか。

万太郎 なんだ。

角子 春画は紙ですよね。隠されてても、物は残ってたわけで。

万太郎 ……そうか。そこか。

角子 残ってたから、後から見つけられたんですよね。

万太郎 そうだ。テープは残らない。配信も止まれば消える。

角子 再発見される可能性がないってことですか。

万太郎 物がなければ、な。

角子 それは春画より厳しいですね。

万太郎 厳しい。三百年どころか、三十年で消える。

角子 止まる理由って何ですか。

万太郎 契約の期限が来たとか、権利の関係とか、いろいろあるだろう。出演者の希望で止まることもある。

角子 それは当然の権利ですよね。

万太郎 当然だ。そこは何の異論もない。

角子 でも記録としては消えますね。

万太郎 消える。そこが難しいところだ。

角子 守るべきものと、残すべきものが違うんですね。

万太郎 うまいこと言うな。まさにそれだ。

角子 どっちを優先すべきなんですか。

万太郎 人が先だろう。それは迷わない。

角子 じゃあ記録は諦めるんですか。

万太郎 諦めるというか、別の形で残すしかないんじゃないか。

角子 別の形。

万太郎 作品そのものじゃなくて、何があったかを書き残すとかな。

角子 今やってることですね。

万太郎 ……そうだな。そういうことになるか。

角子 急に立派なことしてる感じになりましたね。

万太郎 立派じゃない。ただの雑談だ。

角子 でも三百年後には資料かもしれませんよ。

万太郎 さっき三十年って言ったじゃないか。

角子 欲が出ました。

万太郎 欲張るな。

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