【対談】あの店は何だったのか 街角の大人のおもちゃ屋

大人のおもちゃ屋

あの店は何だったのか 街角の大人のおもちゃ屋

角子 今日は何ですか。

万太郎 昔、街に妙な店があってな。

角子 妙な店。

万太郎 大人のおもちゃ屋だ。

角子 おもちゃ屋。

万太郎 いや、そういうおもちゃじゃない。

角子 わかってます。わざと聞きました。

万太郎 性格が悪いな。

角子 どんな店だったんですか。

万太郎 商店街の外れとか、駅からちょっと離れた場所にな。ぽつんとあるんだ。

角子 目立つんですか。

万太郎 目立つ。看板がやたら派手でな。ピンクとか紫とか。

角子 派手なんですね。隠れてるのかと思いました。

万太郎 隠れてない。堂々としてる。だが中は見えない。

角子 窓がないんですか。

万太郎 塞いである。だから何をしてる店かわからない。

角子 子どもの頃はどう思ってたんですか。

万太郎 それだ。今日話したかったのはそこなんだよ。

角子 何かあったんですか。

万太郎 何もない。ただ、通るたびに気になってた。

角子 中が見えないから。

万太郎 見えないし、看板には大人のおもちゃって書いてある。

角子 子どもからしたら意味不明ですね。

万太郎 意味不明だ。だが言葉だけは理解できるだろう。大人の、おもちゃ。

角子 そのままの意味で取りますよね。

万太郎 取る。だから思ったんだ。大人だけずるい、と。

角子 ずるい。

万太郎 大人には専用のおもちゃがあって、それが売られてる店がある。俺たちは入れない。

角子 純粋に羨ましかったんですね。

万太郎 羨ましかった。どんなおもちゃなんだろうと本気で考えてた。

角子 何を想像してたんですか。

万太郎 もっとすごいプラモデルとか、そういうやつだ。

角子 かわいいですね。

万太郎 かわいいだろう。何も知らないんだから。

角子 いつ気づいたんですか。

万太郎 中学に入る頃だな。誰かが教えてくれた。

角子 どうでした。

万太郎 裏切られた気分だった。

角子 裏切られた。

万太郎 プラモデルじゃないのかって。

角子 そこですか。

万太郎 そこだ。しばらく納得いかなかったな。

角子 でも、名前がややこしいですよね。

万太郎 ややこしい。今考えると、あれは絶妙な名前だ。

角子 どういうことですか。

万太郎 直接的なことを書かずに、大人向けだと伝えてる。子どもには意味が届かない。

角子 うまい言い方ですね。

万太郎 うまい。当時はそういう言葉の工夫があちこちにあった。

角子 その店、今もあるんですか。

万太郎 ほとんど見ないな。あっても場所が変わった。

角子 なくなったんですか。

万太郎 通販に移ったんだろう。店に入る必要がなくなった。

角子 それはそうですよね。買いに行かなくていいので。

万太郎 そうだ。あの手の店は、入るところを見られるのが最大の問題だからな。

角子 全部そうですね。この話、毎回それです。

万太郎 毎回それだ。俺の人生はそれの繰り返しだった。

角子 悲しくないですか。

万太郎 悲しくはない。ただ、店がなくなると街の景色は変わるな。

角子 派手な看板がなくなったと。

万太郎 なくなった。あれはあれで、街の一部だったんだよ。

角子 子どもが不思議に思う場所ですね。

万太郎 そうだ。今の子どもは何を不思議に思うんだろうな。

角子 ……たしかに、街に謎の建物ってないかもしれません。

万太郎 だろう。全部わかる時代だ。

角子 調べたら出てきますからね。

万太郎 あの、わからないまま通り過ぎる感じは、もうないのかもしれん。

角子 ちょっと惜しい気もします。

万太郎 惜しいだろう。

角子 でもプラモデルだと思ってたのは面白いです。

万太郎 そこを掘り返すな。

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