街から消えた店 ブルセラという商売があった
角子 今日は何の話ですか。
万太郎 ブルセラだ。
角子 なんですかそれ。
万太郎 知らんか。
角子 初めて聞きました。
万太郎 そうか。もう通じないのか。
角子 何かの略ですか。
万太郎 ブルマとセーラー服だな。それを略してブルセラだ。
角子 それが何なんですか。
万太郎 店があったんだよ。1990年代の話だ。
角子 服屋ですか。
万太郎 いや、中古を売る店だ。制服とか、体操着とか。
角子 誰が買うんですか。
万太郎 男だ。
角子 ……ちょっと待ってください。
万太郎 察しがいいな。そういう店だ。
角子 中古の制服を、男の人が買うんですか。
万太郎 買う。着るためじゃないぞ。
角子 わかってます。言わなくていいです。
万太郎 すまん。
角子 売る側は誰なんですか。
万太郎 そこが問題だった。女子高生だ。
角子 高校生ですか。
万太郎 そうだ。自分の制服とか、そういうものを持ち込んで売る。
角子 それ、大丈夫なんですか。
万太郎 大丈夫じゃない。だから消えたんだ。
角子 当時は普通にあったんですか。
万太郎 あった。しかも街中にな。看板を出して営業してた。
角子 隠れてやってたわけじゃないんですね。
万太郎 隠れてない。そこが今考えると異様だ。
角子 誰も止めなかったんですか。
万太郎 最初は法律の隙間だったんだよ。物を売買してるだけだって理屈でな。
角子 屁理屈ですね。
万太郎 屁理屈だ。だが当時は取り締まる根拠が曖昧だった。
角子 それでどうなったんですか。
万太郎 問題になった。当然だな。それで条例が整備されていった。
角子 法律ができたんですね。
万太郎 できた。青少年の保護に関する条例とか、そういう形でな。
角子 それで店が消えたと。
万太郎 消えた。九〇年代の後半から二〇〇〇年代にかけて、街から見なくなった。
角子 万太郎さんは行ったんですか。
万太郎 行ってない。
角子 本当ですか。
万太郎 本当だ。ただ、行ってみたいとは思った。
角子 思ったんですね。
万太郎 思った。正直に言う。どんな店なんだろうって好奇心はあった。
角子 行かなかった理由は何ですか。
万太郎 入りにくかったんだよ。それだけだ。立派な理由じゃない。
角子 倫理観じゃないんですね。
万太郎 違う。単に度胸がなかった。
角子 正直すぎませんか。
万太郎 嘘をついても仕方ないだろう。
角子 でも、今なら行かないですよね。
万太郎 行かない。というか、店がない。
角子 そうじゃなくて、あったとしてもです。
万太郎 ……行かないな。今なら何が問題かわかるから。
角子 当時はわからなかったんですか。
万太郎 わかってなかった。悪いことだとは思ってたが、なぜ悪いのかまでは考えてなかった。
角子 何が問題なんですか。
万太郎 売ってるのが高校生だってことだ。金が要るから売るんだろう。
角子 そこに大人が金を出すと。
万太郎 そうだ。需要があるから商売になる。買う側がいなければ店は成立しない。
角子 買う人が悪いってことですか。
万太郎 店も悪いし、買う側も悪い。それと、煽ったメディアもな。
角子 雑誌ですか。
万太郎 雑誌だ。ああいう店を面白がって紹介する記事があった。
角子 紹介してたんですか。
万太郎 してた。だから知ってたんだよ、俺も。
角子 行ってなくても知ってると。
万太郎 そういうことだ。あれが情報源だった。
角子 メディアが広げたんですね。
万太郎 広げた。そこは反省すべき話だと思う。
角子 万太郎さんが反省するんですか。
万太郎 俺が反省しても仕方ないがな。ただ、読んで面白がってた側ではある。
角子 今の話、けっこう重いですね。
万太郎 重い。だが、なかったことにはできんだろう。
角子 消えて良かったってことですね。
万太郎 良かった。それは間違いない。
